原題「INSIDE T4 TERMINAL OF TOMORROW」
Hulu 『ナショナルジオグラフィックチャンネル』で、11月18日まで期間限定放送されています。
世界中から訪れる旅行者に、空港での待ち時間を快適に過ごしてもらうことは、その国の一大事業になっています。
そういった国策を採っている国の中でも頭ひとつ抜き出ているのがシンガポールです。
資源を持たないこの国は、先進的な政策によって、自国に外貨を呼び込み発展してきました。今回採りあげるチャンギ空港は、そんなシンガポールの玄関口です。
その最新ターミナル 4が、2017年10月31日に開業しました。
今回採りあげたナショナルジオグラフィックの番組『潜入! チャンギ空港が示す近未来』は、そのターミナル4の開設に苦心した人々の創意工夫を採りあげたドキュメンタリーです。この記事では、番組の概要を紹介しながら、チャンギ空港に関する情報をまとめていきたいと思います。
目次
チャンギ空港基本情報
チャンギ空港は、国の東側に位置しており、シンガポール市内とバス、タクシー、MRT(電車)などの交通手段を使って30分ほどで移動可能です。
シンガポールは、東南アジアのマレー半島の先端に位置する小国ですが、貿易と金融におけるアジアのハブとして発展してきました。世界都市ランキングにおいて、ロンドン、ニューヨーク、パリに続く第4位の国際都市です。国語はマレー語ですが、イギリスの植民地だったことからも英語でのコミュニケーションで全く問題のない国です。
その玄関口であるチャンギ空港は、シンガポール航空、シンガポール航空カーゴ、ジェットスター・アジア航空、タイガーエア、スクート5、シルクエアーの拠点空港であり、番組内でも解説していたように、6年連続世界一の空港に選ばれています。
毎週7000便以上の離着陸があり、100万人以上を世界400都市と結んでいます。
2016年の利用客は6200万人で、同じ年の成田空港の年間利用者数が3900万人ですから、ほぼ1.5倍強の利用者数ですので、いかに巨大な規模を誇っているかが解ります。
さらに、人口500万の国に対して、この空港での雇用は28000人以上とのことですので、いかに空港が、この国の経済にとって重要なのかが伺えます。
チャンギ空港は、その利用者数の増加に対応するために、既に3つあったターミナルに加えて、2012年からターミナル4の建設を始めました。その完成直前2017年の10月頃を取材したのが今回の番組です。番組のテーマは題名にある”近未来”が示すように、、このターミナルが目指したオートメーション化にあります。
オートメーション化を図ることで、アジアの他の国などで見られるような、「行列」や「混雑」を解消することが目的です。空港を快適な空間にすることで、チャンギ空港での体験を旅の一部として楽しんでもらいことを意図しています。先進国の空港としては、間違い無く目指すべき道でしょう。
待ち時間を苦痛なものでなく、エンターテイメント化し、この場所で過ごしたいと思わせるだけの設備や施設を設けています。例えば、映画館が2館、巨大なショッピングエリア、バタフライガーデンまで備えます。
『潜入! チャンギ空港が示す近未来』概要 〜 アート 〜
チャンギ空港が目指しているのは、Fast And Seamless Travel(FAST)、「速くて滞りのない旅!」です。
空港の主要な機能である、チェックイン、手荷物の預り、入出国手続き、搭乗までの一連の流れを、最新のテクノロジーを駆使して、セルフサービスによる自動化を目指します。
また、このターミナルの大きなビジュアルコンセプトは「アート」と「植物」です。
革新的発想と最新技術の活用によるアートを取り入れることで、利用者のストレスを和らげることを目的とします。
その目玉となる作品は、世界最大の動く彫刻です。
空中に浮かぶ花弁をイメージした彫刻で重さ約約640kg。花弁型の雲をイメージした彫刻をぶら下げ、コンピュータ制御によってコントロールします。
この作品を制作したのは、世界的に有名なドイツのアート集団「アート+コム」です。
最近では、ライゾマティクスとの合同展を開催したりと、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
ちなみに、チャンギ空港のターミナル1の水滴アートも制作したとのことです。
『潜入! チャンギ空港が示す近未来』概要 〜 植物 〜
シンガポールは、植物都市としても世界的に有名です。シンガポール植物園(ボタニック・ガーデン)と、「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」が有名です。
ターミナル4のもうひとつのコンセプト「植物」を実現するために、ターミナル内に植物園を作ります。
5万平方kmのもの敷地を植物で埋め尽くす作業はとてつもなく大変そうです。
まず、空港内は日照条件が悪いので、日陰に強い植物を育てるところからはじめたそうです。最終的には高さ12Mにもなる木を何本も空港内に自生していたかのように植えていきます。最終的に50万もの植物で、空港内は覆われているとのこと。
しかも、空港開設後も、植物なので、当然光と水をコントロール、つまりきちんと育てていかなければいけない気の長い話です。
この植物の中に、花弁型の雲をモチーフにしたアート作品が浮かぶ姿は圧巻です。
空港を訪れた人が、この彫刻をみて驚く。作った方々は、そのことが、人の人生の一瞬に寄与したという充実感を感じることができたと、とても満足そうでした。
『潜入! チャンギ空港が示す近未来』概要 〜 オートメーション 〜
チャンギ空港、ターミナル4はあらゆるものをオートメーション化を図っています。
「チェックイン」、「手荷物預け」、「入出国手続き」、「搭乗手続き」までに一連の流れを滞りなく進めようとします。
番組内では、この一連の人のフローが実際にきちんと機能するかどうかのテスト期間を取材しています。
一番憂慮していたことは、高齢の方や、子ども達がきちんと手続きできるかという点だったそうです。
「チェックイン」では、読み取りのい機械にボーディングパス、パスポートを差し込み、後はパネル上での操作で済んでいました。確かにデジタルに明るければスムーズに進めそうです。
次の「手荷物預け」も客側のオペレーションが同じようなものですが、、空港側がかなりテクノロジーを駆使していました。
預けようとする荷物が規定内に収まっているかのどうかを判別するために、3つのカメラで画像を撮り、それを三次元的な立体物としてデータ化し体積計算を行い規定外の荷物を判別していました。
また、危険物を判別するために、世界初のCTスキャンを導入したとのことです。病院で使用されているようなCTスキャンと同じようなタイプです。
これによって、電子機器を取り出す必要がなくなったことが利用者にとっては一番のメリットでしょう。
当たり前ですが、危険物と判断された場合に、その荷物の持ち主は、空港職員が対応して別室送りになっていました。そこはアナログですね。
荷物を預かってからの、裏方での荷物管理もハイテクです。
荷物はすべてトレーに乗せられた上で、各荷物に付けられたタグとトレーのタグとのマッチングですべての荷物が追跡可能になっています。
タグの読み取りエラーがあった場合は、人間が主導でバックアップし、荷物が出発時間に必ず間に合うような工夫がされていました。
バゲッジロストは、カスタマーも困りますが、航空会社側にも大きなコストがかかるので、できるだけゼロを目指したいのでしょう。
「入出国手続き」では、パスポート写真による本人確認の判別が、カメラデータを通して、コンピュータ上での特徴点判別による画像解析が行われていました。
人の眼で判断するよりも、的確に早く行えるのでしょう。
本人確認も最近はIDタグが埋め込まれてパスポートを採用している国も多いので、滞りなく進めることもできそうです。
それでも便が重なって、多くの人がイミグレーションに押し寄せた場合は、どうしても長蛇の列ができてしまします。
その待っている間のストレスを少しでも和らげるように、70mの大型スクリーンが設置されていて、目的地情報を映し出していました。
まとめ
シンガポールは、様々な宗教・人種・文化の混ざり合う国です。
そんな国の歴史をターミナル4に再現しようとします。
遺産ゾーンと呼ばれるエリアにシンガポールの歴史を知ることのできる劇場を建設し、スクリーンではシンガポールの歴史に関する紹介映像が流れていました。
荘厳な感じもありプロモーションとしてかなり秀逸な印象を受けました。
最後に施設内を廻る自動お掃除ロボットの映像で番組は終わります。
4000のチームでつくった22万500平方メートルの広さのターミナル4、近々実際にこの眼で見たくなってしまいました。
昔から洗練された空港でしたが更に最先端を進んでいると思います。空港は経由地でなくもうそこで過ごす目的なのですね。